2022年03月16日(水) Vol.599 坂野聡(経済産業省近畿経済産業局)

新しい繁栄の時代と大阪・関西万博への期待

(はじめに)
ここ数年は、新型コロナウイルスとの厳しい闘いを余儀なくされました。一旦、収まったかとも思えた感染も、新たに報告されたオミクロン株の感染拡大とともに、再び、まん延防止特別措置が発令され、今日現在、未だ経済活動に制限が課せられています。

(円高不況とバブルの崩壊)
私が通商産業省に採用されたのが1985年。その年の9月に、ニューヨークのプラザホテルで、G5の大蔵大臣・財務長官と中央銀行総裁との会合が開催され、各国の外国為替市場の協調介入により、ドル高を是正し、米国の貿易赤字を削減することで合意されました。日本では、この「プラザ合意」後の急速な円高により、輸出型企業は大打撃を受けました。政府は数次にわたる経済対策を講じました。低金利政策は不動産の過剰流動性を招き、不動産バブルを引き起こすことにつながりました。

坂野聡

日本は、内需の拡大、輸入促進が大きな政策目標となり、重厚長大型から知識集約型産業への移行が求められました。「時間消費型」のビジネスモデルが脚光を浴び、高度成長期の終焉とともに、生活様式や価値観に大きな変化が生まれました。
この円高対策の後半からバブル経済へと突入する頃、私は通産省の調査課で、政府の「月例経済報告」の省内のとりまとめと経済企画庁との調整を担当していました。この頃の関係閣僚会議の様子が、1989年のベストセラーである『「NO」と言える日本』の冒頭部分に描かれていいます。ソニーの盛田昭夫氏、先日亡くなられた、運輸大臣であった石原慎太郎氏の共著です。

『経企庁の局長が、今月も前月と同様に国際収支の黒字幅は順調に縮小ぎみにございます。つまり、商売が繁盛しなくなって結構でございますと言うと、閣僚たちがなるほどと言ってそこに赤線を引く。
私は、妙な現象だなと思い、仲の良い隣にいる自治大臣だった梶山さんに、梶さん、これどういうことなんだ。商売が繁盛しなくなってよかったよかったとみんなうなずいて赤線を引いているけれども、このような国は永くないのじゃないかなと言いますと、言葉だ、言葉だ、言葉の意味が変わったんだよと、わかるような、わからないようなことを言っていた。つまり、価値の観点が変わったということでしょうね』(「NO」と言える日本(10頁))

国会内の大臣室という狭い一室で、事務方の一人として、石原大臣が梶山大臣に話しかける場面を目にしていました。
企業は急激な円高を克服するため、身を削るコストの削減に取り組みました。工場の海外での生産の依存度を上げ、労働コストの流動化を進めました。
しかし、このような取組にも関わらず、日本経済は30年にもわたり、停滞したままです。今や、非正規雇用の社会的不安定さ、経済安全保障と言われるサプライチェーンの見直しなど、顕在化している問題も少なくありません。
今、新しい資本主義が提唱され、「成長」と「分配」の好循環が求められています。経済産業省でも「経済産業政策の新機軸」として、産業政策の深掘りを進めています。1985年の円高不況から始まり、バブル崩壊以降の長期の低迷からの転換が始まっています。

(30年サイクルとコロナ後の繁栄)
渋沢栄一の玄孫である渋澤健氏によれば、日本の近代化経済社会の歴史は30年サイクルで繰り返すと言っています。1868年に起きた明治維新から1900年くらいまでの30年間は、江戸時代の「常識」がことごとく「破壊」された30年。次の1930年頃までの30年間は、近代化が進んだ「繁栄」の時代。しかし、この急速な近代化によって日本は戦争による「破壊」の30年へと足を踏み入れました。1960年頃から、日本は「高度成長時代」と呼ばれる「繁栄」の30年を迎えます。その終焉となる1990年のバブル崩壊からの30年は「破壊」された30年の時代だったのではないかと述べています。
次の新しい時代の幕開けとなる2020年には何が起きたのか。新型コロナウイルスの感染拡大による世界の混乱が、まさしく、今後の「繁栄」への「グレートリセット」の象徴となるのではないかと言います。
今こそ、新型コロナによる危機を乗り越えた先の新しい社会を見据え、着実に成長の種をまいていく必要があります。このコロナ禍が起爆剤となり、大きな社会変化のうねりとなって現れる予感を感じます。

(2025大阪・関西万博への期待)
大阪・関西では、2025年に国際博覧会が開催されます。新型コロナウイルス感染症を乗り越えた、新たな時代に向けた国家プロジェクトと位置付けられています。高度成長期の国家の繁栄を背景とした1970年の大阪万博との大きな違いは、人類共通の課題の解決策を提示する万博であることです。
「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会を実現する持続可能な開発目標(SDGs)の達成と達成年限である2030年から先(SDGs+beyond)への貢献が期待されます。
また、1851年に開催された世界初の国際博覧会であるロンドン万博が産業革命による、農耕社会(Society2.0)から工業社会(Society3,0)への脱皮を大衆に見せました。2025年の大阪・関西万博では、新型コロナウイルス感染症により顕在化した社会の課題をIoTやロボット、人工知能(AI)、ビッグデータといった社会の在り方に影響を及ぼす新たな技術の進展を活用して、課題先進国として、これら先端技術をあらゆる産業や社会生活に取り入れ、経済発展と社会的課題の解決を両立していく新たな社会であるSociety 5.0の実現をする万博になることが望まれます。
そして、この万博開催をきっかけに、大学、自治体、NPO、個人、企業等による組織を越えた「共創」を促進し、人類共通の課題解決に向けた大きなムーブメントを起こすことが重要です。2025大阪・関西万博のレガシーとして、この関西の地がイノベーション創出の場とならねばなりません。

(謝辞)
 今年3月末をもって、私は定年退職を迎えます。関西ネットワークシステムを通じて、様々な方々との出会いがあり、あらゆる場面でご助力いただきました。さらに、世話人の堂野さんには、今回のコラム執筆の機会をいただきました。皆様のこれまでのお力添えに深く感謝申し上げます。これまでの37年を振り返り、このコロナ禍が新しい繁栄の時代への大きな転換点となる予感を書かせていただきました。
4月以降も、関西経済の発展に寄与していきたいと考えています。むしろ、これからが真価を問われる本番だと気を引き締めています。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

写真:国際知的財産保護フォーラム(IIPPF)中国実務者ミッション「知識産権局との意見交換」(中央:筆者@知識産権局・2018年12月)

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