2019年09月18日(水) Vol.477 中村光宏 (株式会社キャットアイ)

物理屋さんってどんな人?

株式会社キャットアイの中村光宏です。今回、初めてメンバーズコラムを担当することになりましたので、ちょっとした自己紹介も兼ねて、私もその端くれであるところの物理屋という生きものについて、少し書いてみました。物理屋のことをよく知らない人も多いかと思いますが、決して怖い危険生物ではないということが判って頂けたらいいな、と思います。
なお、これはあくまで私の個人的な考えなので、ちょっと偏っています。それと、かなり大雑把に書いたので、不正確になっているところもあります。ご注意ください。
◇私が物理屋になるまで
私は大学院で、基礎物理学の中の素粒子物理学というものを専攻していました。

中村光宏

では、なぜ私は素粒子物理学を専攻することになったのか。それはたぶん、物心ついた頃から分解魔だったからだと思います。最初は自転車や時計、テレビやテープレコーダーの分解・組立から始まりました。どんな構造でどんな仕組みなのかが、知りたくて仕方がなかったのです。なぜなのかは判りません。気付いたときには既にそうでした。(そういえば、大学時代は大学にはほとんど行かず、オートバイを滅多矢鱈と分解・組立していました。仕組みを知りたいだけではなく、分解・組立自体も好きなようです。)
そして、小学校高学年で物質を構成する分子や原子(化学)に興味が移り、中学校では分子・原子を構成する核子(陽子や中性子)やその他の素粒子に、高校ではそれらを構成するクォークとレプトンとその他基本粒子にと、どんどん分解の細かさがエスカレートしていきました。当然、大学では、クォークやレプトンなどを対象とする素粒子物理学を専攻することにしたわけです。大学院では、つくばの高エネルギー物理学研究所(現在の高エネルギー加速器研究機構)の陽子加速器KEK-PS(もう無い)を使って、主にK中間子を分解していました。
結局は、最後までやるのを諦めて民間に就職しました。それは、隣の研究室に益川敏英教授という人がいて、理論系(益川教授)と実験系(私)の違いはあるにせよ「どう頑張っても、私はこのレベルには到達できん。」と思ったからです。また、素粒子物理学の実験期間は非常に長く(私のいた実験グループで約10年)、30歳オーバーまで頑張って博士号を取るだけの金銭的余裕も気力も無かったのも、諦めた理由です。
◇ところで、物理学や素粒子物理学ってどういった学問でしょう?
格好よく書くと、自然を観察して、自然がどのように動いているかを解き明かし、それをなるべく簡潔に定量的に記述するのが物理学です。
経験上、ここを誤解されている人は結構多いと思います。大雑把に言うと「なぜ、そうなるの? (why)」という質問は、物理学の守備範囲外です。「どうなってるの? (how)」が物理学の対象となります。例えば、こんな感じです。
質問者「なぜ、物は落下するのですか?」
物理屋「それは、物体間には万有引力が働くので、お互いに引き合うからです。」(←騙されるな!! 物理屋は、なぜ落下するのかではなく、どうやって落下しているかを答えているぞ!!)
質問者「では、なぜ、万有引力が存在するのですか?」
物理屋「さあ? (そんなん知らんがな。見たら、そうなってるしなぁ。)」
そして、素粒子物理学は、物質やエネルギーがどのように出来ているかを、最小単位までバラシて解明する学問です。自然は物質やエネルギーの組み合わせなので、自然すなわち宇宙がどうなっているかを解明するというのが最終目標、と言い換えてもいいです。逆に宇宙丸ごとの仕組みの解明に取り組んでいるのが宇宙物理学で、目標は素粒子物理学と同じです。最も微細な方からアプローチしているか、最も巨大な方からアプローチしているかが違いですね。
あと、「理系」って一括りにされることが多々ありますが、物理学には他の全ての学問と根本的に異なる点があります。それは、終わりがあることです。自然全てを一つの理論(ToE = “Theory of Everything”といいます)で記述することが物理学の目標なので、実験や観測での検証込みでToEができたら物理学という学問自体は基本的には完了です。つまりは、自分の仕事を無くすのが物理学者の仕事だと言えます。私としては、この点はちょっと変わっていると思っていて、話のネタによく使っています。まあ、検証が極めて困難なことは判っているので、当分の間は仕事がなくなることはないのですが。(物性物理学とか応用物理学とかは、ちょっと事情が違います。)
◇物理屋さんってどんな人?
これは他の学問でもたぶん同じだと思うのですが、物理屋も、物理学の学問としての性質に合わせて、よく訓練されています。対象物を先入観無しにありとあらゆる角度から観察し、それをシステムとしてマルっと把握してしまいます。よく訓練されている人ほど癖のようになっていて、日常生活でもあまり意識せず普通にやってしまいます。あと、物理学の「簡潔なほど良く、正しいはず」は一種の宗教っぽいです。それで物理屋も思考バイアスがかかって、つい、簡潔に把握・記述しようとしてしまう人は多いような気がします。
そんなわけで、物理屋は、物事を何でもシステムとして把握することや、本質を洗い出すことに極めて長けています。モデル化は物理屋の常套手段です。逆に、ついつい、最初に全体と本質を把握しようとしてしまうようです。この辺りの考え方や行動パターンは、他の分野の人とは違っているように思います。
これをうまく説明している小話が、「物理学者はマルがお好き?牛を球とみなして始める物理学的発想法」という本の初っ端に載っています。該当箇所の引用がhttps://cojjy.wordpress.com/2012/06/08/sphere/にあったので、読んでみてください。物理屋の考え方が判るかも。私はこの小話を気に入っていて、よく説明に使っています。今あらためて振り返ってみたのですが、仕事などでもやはり、私は思った以上にかなり頻繁に、最初に白紙にマルを描いていました。
なお、物事を組み立てることと物事を把握することは別の話なので、物理屋がシステム構築を得意とするかどうかは、その人によります。実験屋さんは実験のシステムを自分で組むので、割と得意な人が多い印象です。
◇あなたの組織にも、物理屋少々を
煮物を作るときに適量のお酒を入れると、味が締まって美味しくなるのはご存知の通り、だからといって大量に入れれば変になってしまいます。
物理屋の使用方法も同じく、適量を組織に入れるとグッと業務品質のレベルが上がりますので、ぜひお試しを。一般と違ったものの見方や思考法が、素早いシステム思考や本質把握が、あなたの組織の味を引き締めます。ただし入れ過ぎにはご注意。収拾がつかなくなります故。

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