2019年03月06日(水) Vol.451 稲垣玲奈(KNS関東支部世話人/個人事業主)

地域活性化の活動を振り返って

 お世話になっております、稲垣玲奈です。現在は個人事業主をしています。
 大学院修了後、民間企業で地域活性化事業に携わるご縁を頂き、食との出会いを楽しむ機会に恵まれました。また、地域の皆様にお世話になり、経験することがなかった新しい世界を見せて頂いてきました。特に「食べる」ことについては考えさせられることが多く、コラム執筆のこの機会に地域活性化の活動を振り返ってみたいと思います。

稲垣玲奈

【農産物の育成の背景】
 B-1グランプリなどの地域特有の食を楽しむイベントが国内各地で盛り上がりを見せています。富士宮やきそば、横手やきそば、八戸せんべい汁、厚木シロコロ・ホルモンなどがB-1グランプリの開催によって、知名度を全国区にまで上げていきました。なお、ご当地グルメの美味しさは農産物の存在により支えられていますが、なかなか農産物そのものにはスポットが当たりにくい状況となっています。
 言うまでもないことではありますが、中山間地域で育まれていく農産物には様々な手間暇がかかっています。毎年、作付けから収穫まで獣害との闘いや気候の事情を乗り越えつつ、道の駅での販売や市場への出荷までこぎ着けています。一度、生産者の方の「坊ちゃんかぼちゃ」の畑を見せて頂くため、軽トラックに乗せて頂く機会がありました。ちょうど前日、養豚場から豚の堆肥を運んだばかりの軽トラックだったため、目が痛くなる程の刺激的な匂いを全身で経験することになりました。
 このように「坊ちゃんかぼちゃ」一つとっても、堆肥以外にも支柱立てや枝を整えるという手間暇が美味しい農作物を育てていきます。私が見たのは農業のごく一部ではありますが、一つ一つの食べ物にある背景を実際に知ることができたのは良い経験でした。
 農業の中での手間暇については当たり前のことと思われるかもしれません。しかし、農業の現場での実体験を経ることで、消費者は食に対する新たな感動を得ることができます。また、そこには生物の循環などの都会では体験できない自然が日常生活の中にあり、「食」のストーリーを支えています。

【命を頂く】
 東京で暮らしていると、まず街中で猪や鹿・熊と鉢合わせになることはありません。しかし、山里へ行くと「熊に注意」などの張り紙などを目にすることがあります。仕事でお世話になっていた方からも、害獣駆除のために休日は猟友会のメンバーとして山へ入るというお話を伺っていました。猪が畑を荒らすこと、特に竹の子や植物の根が大好物で片っ端から食べつくされてしまう山さえあること。そして、鹿は新芽を啄み、木の皮を剥ぐため、木の成長に影響を及ぼします。畑や圃場を荒らされることで農作物が作れないという事態にまでなることがあり、農家の方々を困らせています。中山間地域の農業の現場では、常に野山の動物との共存が深刻な課題となっています。
 大学からの友人がライフル射撃の選手をしており、その伝手でジビエ料理を頂く機会がありました。猪のハンバーグや鹿のステーキ、最近では熊の手の煮込みを頂きました。中山間地域では、猪・鹿・熊どれも地域の人を困らせている動物達です。しかし、料理次第ではメインディッシュとして生まれ変わり、高級フレンチレストランのテーブルを飾ります。
 農作物を育む中で害を及ぼす動物に対しても感謝しつつ最後まで命を頂く。そのような循環が機能していく環境が実現していくと良いなと思っています。

【地域資源を活かしきる】
 私がお世話になっていた地域では、駆除した猪や鹿が肉として全て活かされていた訳ではなく、生ごみとして焼却されていることが大半であると聞きました。そして、食肉としての処理施設がないためであるとその理由を聞いていました。近年では、ジビエカー(移動式解体処理車)の登場などのニュースがあり、自治体で取り入れることが出来れば新たな食の循環に繋がるのかもしれません。
 その他にも、例えば「アカモク」が栄養を見直され、全国各地のスーパーで販売されるようになりました。富山大学薬学部の教授が、「アカモク」の成分にはヘルペスやHIVのウィルスの増殖を抑える働きがあるという研究結果を学会で報告したことが「アカモク」人気のきっかけになりました。それまでは漁で邪魔だとされていた「アカモク」ですが、今や一躍人気商品となっています。
 地域資源については、視点や活用方法を変えることで得られるものが多くあり、まだまだ地域には宝物が眠っていると思います。「地域活性化」は、ゴミとして捨てられている資源の中にも大きな可能性を秘めています。

【食のストーリーのこれから】
 東京で生まれ育った私にとって、東京以外の地域の食との出会いは楽しむこと以上に学びの機会を頂くことになりました。特に、食の背景について真剣に考えるようになったのは、山里での仕事に携わるようになってからだったと思っています。
 何より食の背景を知ることで、地域で紡がれたストーリーは食べ物の一部になります。例えば、イタリアのアグリツーリズモは地域や農業そのものをブランド化に導き、食の背景のストーリーの重要性を世界に示す事例となりました。また、「食べる」ことの背景にあるリアリティ、これを「生きる」ことと結びつけて考えられるのは農水林業の現場で得られる実感ありきだと思います。その一方で、農業の分野では自然の循環が十分に機能しているものの、地域資源に関する循環についてはまだまだ改善の余地があります。
 以前、KNS関東支部の井戸端会議で東海大学・杉本洋文先生からお話を伺う機会に恵まれました。先生のお話の中で、地域の人は「土の人」であり、他の地域から来た人は「風の人」という言葉がありました。「風の人」は新たな情報を志高く運び、最後には良い形にして「土の人」にお返しする。この流れを地域の問題解決の中に取り込んでいくと新たな地域循環が生まれるきっかけになると思っています。

 KNSで提供して頂く話題の中には、地域活性化や地域再生への取り組みなどの興味深い話題が出てきます。これからもKNSの皆様のチャレンジや志に学びつつ、私の考える地域活性化に取り組んでいくことを楽しみにしています。

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