2019年02月13日(水) Vol.448 藤澤良志(岩手県 教育委員会事務局 学校調整課)

地域における高等学校の役割とSociety5.0について

 皆さん、こんにちは。KNS東北支部の藤澤です。
 平成22年度から3年間、岩手県名古屋事務所に勤務しておりましたが、その時以来のコラムとなります。当時は、名古屋市で岩手県の観光物産のPR等の仕事をしていましたが、現在は、県職員生活28年目にして初めて教育委員会に勤務しています。
KNSの皆さんは、高等教育機関である大学には、産学官連携の場面で深く関わり、馴染みもあると思いますが、高校となると少々縁遠い存在ではないでしょうか。しかし、今後、高校も地域や産業界と密接に関わっていく方向にあるという話題を、現在担当している高校再編という業務に関わって御紹介します。

藤澤良志

 岩手県では、平成27年度に向こう10年間(H28 - 37年度)の高校再編計画を策定し、前半5年間の前期計画については、学校統合や学科改編・学級減等の具体的な計画を定める一方で、後半5年間(2021 - 2025年度)の後期計画について、今年度から策定に向けた取組を進めており、昨年12月から県内各地域で意見交換会を始めております。
 文部科学省の学校基本調査によれば、全国の公立高校の設置数は、平成20年度には3,906校でしたが、平成30年度には3,559校と、347校減少し、報道等では今後10年間にさらに100校以上減少するとの推計もあるところです。その大きな原因は、少子化です。
 岩手県内でも、中学校卒業者数は、平成20年3月には22,833人でしたが、平成30年3月には約半分の11,379人にまで減少しております。
 戦後、各自治体では人口増加に伴って高校を新設してきた経緯があり、今度は人口減少に伴って学校や学級数を減らしていけば良いようにも思われますが、話はそう単純ではありません。
 県内各地の市町村長さんも交えた意見交換会において、しばしば聞くのが「病院と学校が無くなると、地域が廃れる!」という言葉です。確かに、特にも広大な面積を持つ岩手県では、地域から学校が無くなれば子育て世代が住むことが難しくなり、次第に高齢者だけが地域に残され、ひいては自治体の存続にも関わるということが容易に想像されます。各自治体は、いわば「生き残り」をかけて、学校の存続、生徒確保に取り組んでいる状況にあるのです。 
 打開策の一つとして、近年、全国各地の高校で生徒の全国募集が行われています。
 その先駆けが、島根県の隠岐島前高校です。同校は、島根県の島前地域(海士町、西ノ島町、知夫村)にある高校で、平成20年度には生徒数の減少により1学年1学級校となりましたが、3町村が中心となって高校魅力化プロジェクトを立ち上げ、生徒の全国募集を始めました。今では学級数も増え、取組を始めた平成20年度から30年度までの10年間に、180人近い生徒が県外から集まる実績を持つ高校へと変貌しています。同校の先進的な取組を学ぼうと、全国から視察が引きも切らないと聞いております。
 こうした動きに触発され、岩手県内でもいくつかの高校で生徒の全国募集を行っています。
 岩手県の県央部にある葛巻町、ミルクとワインとクリーンエネルギーの町として、地域活性化に取り組んでいる町ですが、同町の葛巻高校では、酪農体験などの地域の特色を生かし、山村留学として生徒募集を行っています。
 また、岩手県と青森県の県境、洋野町にある種市高校の海洋開発科は、潜水士を養成する全国でも珍しい学科で、卒業生は国内外の海洋工事の現場で活躍しています。種市高校は、平成25年のNHKの朝ドラ「あまちゃん」で、のんさん演じるヒロインの天野アキの憧れの先輩、福士蒼汰さん演じる種市先輩が潜水土木科の生徒という設定で、ドラマに登場しました。
平成31年度からは、ワインと神楽の里、花巻市大迫町の大迫高校でも生徒の全国募集を行います。大迫町は、昭和30年代頃から、国内有数の古い地層や冷涼な気候から生み出される個性豊かな地元産のぶどうを使ったワインづくりに取り組み、現在はエーデルワインという銘柄でワイン醸造を行っています。
 これらの地域では、地元自治体が、宿泊場所の確保などの生徒の受入れ環境の整備にしっかり取り組んでいます。成功の秘訣は、地元の熱意と努力にあると思います。
 人口減少が進む地方都市では、生徒や学校の減少という課題に直面しており、そのことが地域の活力にも影響するということもあって、市町村や学校現場等の思いが交錯する中で、学校統合等も見据えながら教育の質を保証すること、どの地域に住んでいても教育を受ける機会が保障されること、さらには生徒が集まる魅力ある学校づくりに向けて、創意工夫がなされています。
さて、高校教育に関わるもう一つの話題として、近年の社会の大きな変化に伴う、高校での人材育成に関する新しい動きについて御紹介します。
国の第5期科学技術基本計画において、超スマート社会、Society5.0が未来社会の姿として提唱されましたが、そうした社会の急激な変化を見据え、高校における人材育成のあり方について検討がなされております。
Soceity5.0、IoT、AI等が極度に進化した社会では、高校においても、従来型の一定の知識を理解し、習得するといった形の学びだけではなく、生徒が地域への興味関心をもち、課題を見つけ解決策を検討していくという、体験や実践を伴った学びが重視されております。高校生が現場に出て、企業や地域の皆さんに直接、学ぶ機会が求められてきます。
こうした動きは、2022年度から適用される高等学校の新しい学習指導要領でも、「社会に開かれた教育課程」として、その方向性が示されています。学習指導要領は、全国どこの学校でも一定の教育水準が保たれるよう文部科学省が定めている教育課程の基準ですが、新学習指導要領には、これからの社会が、どのように変化し予測困難になっても、児童生徒が自ら課題を見つけ、自ら考え、判断し行動できる能力、「生きる力」を身につけていって欲しい、といった願いが込められております。
 学校教育は、これまでもPTA活動、部活動など、保護者をはじめ地域の方々の参加や協力の下に行われてきましたが、子供たちの「生きる力」を育むために、これまで以上に、地域の皆さんの力をお借りしたいというのが「社会に開かれた教育課程」の考え方です。
 既に一部の学校では、総合学習の時間等を活用して、生徒が、地元の企業や団体等の方々から地域の産業、伝統文化、福祉、防災等の様々な分野についてお話を伺い、また、校外で自分の身の回りにどのような課題があるのかを見つけ、地域の大人と対話をしながら、自分なりの解決策をまとめることを通じて、主体性、課題発見能力、課題解決能力を養う取組が行われています。
 KNSやINSでは、地域の企業等と大学との連携については実際に行われ、常に意識されていると思いますが、これからは、高校との間でもそうして連携を深めていくことが期待され、求められる時代となってきました。
皆さんには、地域の産業界としての立場から、また保護者としての立場から、これまで以上にそれぞれの地域の高校に目を向け、関心をもって頂ければ幸いです。

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